【ママの不安解決!】母乳はいつから出る?どれくらい飲む?
出産後の悩みとして挙げられるのが「母乳」。実際に目で確かめられることではないので不安も多いですよね。昔から母乳育児がスタンダードな日本ならではの悩みかもしれません。
今回は、母乳に関するママの悩みを佐藤先生に相談してみました。
佐賀大学名誉教授
佐藤珠美 先生
大阪大学医学系研究科保健学博士後期課程修了。福岡赤十字病院看護係長、日本赤十字九州国際看護大学大学院研究科研究科長、佐賀大学医学部看護学科生涯発達看護学講座教授などを経て2023年3月に退職。母性看護学・助産学、ウィメンズヘルスを専門とし、妊婦相談、産後腱鞘炎、産婦の膀胱ケアなどの研究に携わるほか、教授設計学を用いたe-learningの教材開発も手掛ける。乳幼児のスキンケア、寝かしつけや抱っこなど、産後の母親に向けた情報発信にも注力する。 (一般社団法人 ヘルスサポーターズイノベーション )
目次
- 母乳に関するママの不安は?
- 母乳はいつから出る?
- 母乳の量はどれくらい?
- 授乳は、ママの健康回復もサポート
- 赤ちゃんはどれくらい母乳を飲む?
- 母乳の変化
- 母乳を出やすくする方法
- 母乳が出ない原因は?
- 母乳の産生を増やすには?
母乳に関するママの不安は?
母乳に関する多くの悩みは、ママが母乳の不足感を感じていることだと思います。ミルクとちがって、どれくらいの量を飲んでいるかと視覚的に分からないために「ちゃんと出てるかな、飲んでるかな」と不安になることが多いようです。
世界のママが感じる母乳育児の難しさ
日本では、昔から母乳育児がスタンダードですし、現代でも母乳とミルクの両輪で育児をされている方が多いと思います。一方で、世界的には母親の多くが子どもを母乳だけで育てることに難しさを感じている人が増え、支援が求められているようです。
というのも、海外では日本ほど育休制度が整っていないので、出産後3ヶ月くらいで仕事に復帰するママが一般的。育児も夫婦だけで行うのではなく、ベビーシッターさんを雇っていたりなど、子育ての文化や習慣が日本と違うというのが前提にあります。
育児方法は、世界各国それぞれ
厚生労働省の調査によると、2022 (令和4) 年度の育児休業 (育休) 取得率は女性が80.2%、男性が17.1%。特に、男性に対して付与される育児休業期間は、世界的にみても長いことが日本の育休制度の特徴です。ただ実際に取得できているかは別の問題ではありますが…。
例えばアメリカやシンガポールは、産後3ヶ月で職場復帰する人が7割以上いるのが現状である一方で、育休が短くても子育てに寛容な社会であり父親の育児参加が多いという側面もあります。
少し余談が長くなってしまいましたが、育児に対する考え方や習慣は多様であることを踏まえた上で、母乳について広い視野を持ちながら母乳育児の特徴を知り、ママが抱いている悩みや不安を少しでも軽くできたらいいなと、話を進めていきましょう。
母乳はいつから出る?
おっぱいは産後をイメージされるかもしれませんが、個人差は大きいものの妊娠16週ころから分泌が始まっています。乳腺が発育し、妊娠中期には乳汁分泌の準備が整います。しかし、妊娠中は乳汁分泌を促進するホルモンの分泌が抑えられているため、母乳が分泌したとしてもごく少量です。これを初乳と言い、出産後早期 (2~3日) までに作られます。
出産後、赤ちゃんの発育に関わっていた胎盤が娩出すると乳汁分泌を抑えていたホルモンが急減すると、母乳の分泌が徐々に増えていきます。
母乳の量はどれくらい?
産後2~3日ころまでに出る母乳の量はごくわずかです。その後、産後8~10日ころまでに一日45~60ml程度、産後9~10日以降で一日60ml以上になります。ただし個人差もあるので、はじめての出産では産後4~5日ころにやっと母乳が出始める人もいるため、焦らなくても大丈夫。
授乳は、ママの健康回復もサポート
授乳と聞くと、赤ちゃんのため、赤ちゃんが生きるための免疫や栄養を得るためと思われがちですが、ママのためでもあるんです。出産後の役割が終わった胎盤の体外に出し、子宮の回復にも効果的に作用してくれます。
娩出は赤ちゃんが生まれ出ることを言いますが、胎盤にも娩出という言葉が使われます。胎盤は胎児附属物して考えられるため、胎盤が出て初めて出産が終わると考えます。
赤ちゃんが授乳中にママの乳首を吸うたびにオキシトシンという「愛情ホルモン (おっぱいを射乳させる作用がある) 」が分泌されるのですが、これが子宮収縮を助けてくれるため過度な失血からママの身体を守ってくれます。授乳はママの身体にとっても大切な役割を果たしてくれているのです。
赤ちゃんはどれくらい母乳を飲む?
赤ちゃんの「胃の大きさ」と 「特徴」
母乳の分泌量は、赤ちゃんの胃の大きさに合わせて変わっていきます。生後24時間の赤ちゃんの胃は5~7ml (ビー玉/大) 、生後3日は20ml~27ml (ピンポン玉/大) 、生後10日目は60~80ml (鶏卵/大) というように、少しずつ大きくなっていきます。
胃の形状にも特徴があります。縦に長く胃の入口の締まりも緩いため、吐きやすい構造になっています。授乳回数が多いのは、赤ちゃんの胃に過度な負担をかけないためでもあるんです。
母乳の量は、赤ちゃんの胃の成長に沿っていればOK
母乳分泌量は生後月数の平均ではなく、赤ちゃんの成長に沿っていれば大丈夫です。赤ちゃんの哺乳量が少なければ、回数を増やせばOK。そのうちにしっかり飲めるようになります。
赤ちゃんの胃の形状の特徴として「吐きやすい構造」というのもあるため、授乳後の胃の張り具合やおしっこの回数 (6~8回、薄い黄色) を観察しながら飲みすぎないようにしてあげましょうね。
母乳の変化
母乳は、初乳⇒移行乳⇒成乳に変化します。初乳には免疫物質 (脂肪、ミネラル、タンパク質) が多く含まれ、成乳は、乳糖と脂質の割合が多くなります。移行乳は、初乳と成乳の間に出る母乳です。
初乳は白色透明~濃い黄色で、ドロッとした感じがありますが、成乳は乳白色や青みがかった白色となりさらさらしています。
母乳を出やすくする方法
母乳の分泌には2つの仕組みが関わっています。ポイントは、産後できるだけ早期から赤ちゃんが欲しがるだけ頻回 (8~12回) に授乳することです。
おっぱいを吸ってもらう
一つ目が、エンドクリン・コントロールという「内分泌調整機構」です。分娩が終了し、胎盤が娩出されると乳汁分泌の抑制がとれ、乳汁産生が少しずつはじまります。ここに赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激が加わると、オキシトシンが分泌され、おっぱいを押し出し、射乳反射を引き起します。
このサイクルが軌道に乗るためには、産後早期から頻回に赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらうことが必要です。
乳房が空になる
もう一つは、オートクリン・コントロールといい、赤ちゃんが乳房から飲み取った乳汁の量によって母乳の産生が調節される仕組みです。母乳をしっかり飲んでもらい乳房を空にすることで、次の母乳がつくられますが、授乳 (もしくは搾乳) をしないと乳汁が長時間乳腺のなかにとどまり、乳汁の濃度が高まると乳汁の産生が低下してしまいます。
卒乳の時期はこれを逆に使って、おっぱいの飲ませる間隔を徐々にあけていきます。
母乳が出ない原因は?
母乳が出ないという状況には、①赤ちゃんが必要な量を飲めない、②母乳分泌不全、③母乳は十分なのに、足りないと思う「母乳不足感」があります。
母乳分泌不全を起こす人は、母親側では乳腺の発育不全、ホルモン異常、赤ちゃん側では不適切な授乳方法などがありますが、これに該当する人は少数です。
母乳はちゃんと出ている?という「母乳不足感」
生理学的に母乳育児ができないとされる女性は全体の5~10%程度でしかなく、9割近くの人は母乳が出るように体ができています。実際は母乳が出ているのに、母乳不足感で悩んでいる人が2~3割いらっしゃいます。
もし「母乳が出ていないんじゃないか?」という心配はあれば、まずは助産師に相談して、本当に不足しているのかを確認してもらいましょう。
実は、飲みすぎかも?
なかには、泣く=おっぱいを欲しがっていると誤解し、泣くたびにおっぱいやミルクを飲ませた結果、お腹がパンパンになって苦しくて吐いたり、泣きがひどくなっている赤ちゃんをよく見かけます。赤ちゃんのお腹の様子をよく観察してあげてください。
母乳の産生を増やすには?
乳汁の産生を促すには、母親の心身の健康も重要です。最近は自治体からの産後ケアの補助もありますので、気になることがあるときには、早めに助産師に相談しましょう。
- 赤ちゃんが効果的に授乳できるよう乳首の含ませ方や授乳姿勢を見直す。
- 授乳回数を増やす (泣いたらではなく、空腹のサインを早めに見つけ授乳する)
- 休息は必要ですが、おっぱいはできるだけ休ませないように。睡眠不足や疲労が強い場合には、搾乳やミルクをあげて1回休むことも考えましょう。授乳が辛いと感じるまで自分を追い込まないことが大事です。
- 授乳直前に温湿布。おっぱいの痛みを軽くして、乳汁の流れをよくすることができます。
- 母乳の大部分は水分です。ママが水分をとれていなければ、母乳の出が悪くなります。十分に水分を取りましょう。 (水分量は赤ちゃんと自分のために1日に1,500~2,000ml必要です)